生贄・性蝕の極印

 地上げ工作の黒幕、小松原の奸計により千野の情婦となってしまった美都子。
 千野の情婦とさえなれば鷹尾組の組員に手を出させないという約束も、美都子包囲網の完成を急ぐ鷹尾組に裏切られ、チンピラたちにも美都子を犯す権利が与えられていた。
 千野によるマゾ調教の成果は功を奏し、これまでの美都子なら空手を使い叩きのめしていたチンピラにも逆らうことすら出来ず、じゃじゃ馬娘だった元女番長もしょせんは、男たちを喜ばすだけのマゾっ気たっぷりのただの女だと思い知らされながら絶頂を迎えてしまう。
 
 守るべき喫茶店はもはや鷹尾組によって見る影もなく美津子目当ての淫獣たちの溜まり場となり、日常のすべてが奴隷調教と成り果てる。
 
 これまで共に鷹尾組と戦ってきた仲間にまで身体を売らされ、耐えきれなくなった美津子は六郎の甘言に乗り逃亡を図ったのだが、そこも安住の地ではなかった。とうとう邪恋を満たそうとする六郎が牙を剥いたのだ。
 六郎こそ憎き仇だとも知らず、取り戻しかけた日常は再びおぞましいマゾヒズムに塗り替えられてしまう。
 逃避行の先、美津子はついに六郎の裏切りを知らされ絶望するのだった。

感想

 絶望の未来に耐えきれなくなった美津子は、六郎の甘言に乗せられて鷹尾組から、生まれ育った大鷹の町から逃亡します。
 逃避行の相手に、自分を裏切り邪恋を募らせる六郎を選び。

 ようやくヤクザたちの慰み者という立場から逃れた美津子ですが、もはや美津子に安らぎのときはありません。
 六郎から胸の内を聞かされ、自分がどれだけ酷いことをしてきたかを知り、六郎と夫婦の契りを迎えてしまうのです。

 おぞましいマゾ調教から離れられたと思ったのも束の間、千野とのサドマゾの様子を全て見ていた六郎の手管は、忘れようとしていたマゾの愉悦を思い出させ美津子を再び色地獄へと追い落としてゆく。
 鷹尾組からの追手に怯えながらも、信頼していた六郎にまでマゾ奴隷のように扱われ美津子のマゾ性はどうしようもなく開花し、とうとう六郎の女になることを誓ってしまう辺りで笑いが止まらなくなります。
 
 なにせ美津子の恋人、富樫を間接的に殺害し、恩ある城戸老人を裏切り孫娘に借金を押し付け、いまの美津子の不幸の全てを作った張本人とも知らず頼り切り、六さんの女になるわと涙ながらに口にするのだからお人好しというかなんというか。
 
 これなら女子学生時代、富樫と出会わず素直に六郎の女になっていた方がよほどマシでしたね。
 もっともそれでは美都子のマゾ性を暴くことも出来ず、被虐に追い詰められれば追い詰められるほど美しさを増してゆく美都子は見られませんでしたから、これで良かったとも言えます。
 
 けっきょく百合とも関係を持っていた六郎が口を滑らせたことで二人の逃亡先は見つかり、捕らえられて美津子は六郎の裏切りを知らされ、今度こそ頼るもののない底なしの地獄に堕ちることになってしまうのです。
 
 六郎殺しという(実際には殺してはいない)弱みまで握られ、もう美津子は鷹尾組から逃れることは出来ずに、一生を千野たちヤクザものに尽くすことになるのです。
 
 最後にどういうわけか六郎のことを思い出しながら幸せな気持ちになるというのが悲しい。
 美都子自身、富樫よりも千野よりも誰よりも六郎を選んでおけばこのおぞましい未来を迎えることはなかったと気付いていたわけです。
 
 けれどこれが美津子の運命でした。
 どれだけ鍛えようと、気高い魂を持っていようと。
 マゾ性を見抜かれてしまえばお終いなのです。
 美津子にとっての幸せとは、これまでの女だてらに空手を使い男たちを叩きのめしてきたことを後悔し、生意気な態度をとってきたことを腰を振り振り、謝りながらこれからの一生を過ごすことなのですから。

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